1978(昭和53)年7月2日(日) 朝日新聞 朝刊

ひと

イタリアのカバリエーレ勲章を受けた 皆 川 達 夫

 東京生まれ。26年東大卒。33

年立教大講師、44年から教授。

欧米に前後2回留学。現在遠山

音楽図書館の副館長も。51歳。


 日本の文化勲章に匹敵する勲章だといわれる。「ええ、イタリアでは、カバリエーレ・ミナガワ、といった具合に、称号となるんです」。日本人としては故藤原義江に次いで二人目の受賞。「三十年間こつこつとやってきた中世ルネサンス音楽の研究を認めていただいたのでしょうか」

「水戸徳川の家臣の子孫という家庭環境」で子どものときから謡曲を習ったが、長じてベートーベンやモーツァルトを知って和洋音楽の大きい隔たりに驚き音楽史研究をめざして大学は西洋史、大学院は美学−−という系譜を持つ。

 で、和洋の接点、見つかりましたか。「たとえば、四百年伝わる隠れキリシタン音楽。オラショという祈りの歌のことばはラテン語、スペイン語、ポルトガル語、日本語のチャンポンです。ここにも一つのつながりがある。‥‥日本人は、外来文化に強烈に反応し、摂取しようとする。そして日本に風土化させ不思議な混合文化を生む」

 近年このキリシタン音楽を研究し、日本の側からと欧州の側からと、両方から光を当てたことが、イタリア人の評価を得て今度の受賞となったらしい。「幸い、私はそれが出来る立場にあったんです」

 朝のNHK・FMで、今人気のバロック音楽の解説を受け持っている。「グレゴリオ聖歌を聞いた中学生が、これこそ人間の魂の歌、と書いて寄こします。最小限の音で最大の迫力、訴えを持つ音楽は、時代、国境を越えて人の心を打ちますね」

 二十六年前つくった、「中世音楽合唱団」の指揮もとるし、ブドウ酒にくわしくて「ワインの楽しみ方」という本も出すほどだから、器用なのだ。「私が好きな十六世紀初期のジョスカン・デ・プレの曲を私のコーラスに歌わせながら、おいしいブドウ酒を飲むのは最高ですな」とすこぶる優雅なふうである。貴公子然。スキーは一級。

(民)


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